大豆の食料自給率から見える、日本の食のいま

はじめに
日本の食卓に欠かせない納豆、豆腐、醤油、味噌。
これらの食品の原材料は大豆ですが、その多くをわたしたちは海外に頼っているということをご存じでしょうか?
今回は大豆の国産比率や主な輸入先、国の取り組み、今後の展望についてみていくことにします。
日本の大豆自給率はなぜ低いのか
我々の食卓に欠かせない大豆ですが、その多くを国外に依存しています。日本の伝統食品を支えているにもかかわらず、食品用大豆の国産比率はおおむね24%ほどにとどまり、残りの約76%は海外産に頼っています。
大豆は日本人の食文化を支える主要食材であるにもかかわらず、国産が少ないという構造には、長年積み重なった複数の要因があるのです。
自給率の低さが問題視される理由は、単に生産量の問題だけではありません。地政学リスク、国際価格の高騰、気候変動による不作など、海外依存のリスクが年々高まっているためです。
大豆に限らず、主要穀物をどれだけ国内でまかなえるかは「食の安全保障」に直結します。だからこそ、国産大豆の位置づけが改めて注目されています。
大豆食品ごとに異なる、国産比率のちがい
同じ大豆でも、食品によって国産の使用割合には大きなばらつきがあります。たとえば、風味や品質を重視する豆腐・納豆・味噌などの食品では国産大豆が選ばれやすく、特に高価格帯の商品では国産比率が高い傾向があります。
一方、醤油や加工食品、植物油(サラダ油など)に使われる大豆は、大規模かつ安価な輸入大豆に頼る構造が定着しています。特に油脂原料として使用される大豆はほぼ輸入でまかなわれており、国産が入り込む余地が非常に小さいのが現状です。つまり「国産=高付加価値向け」、「輸入=大量加工・低価格帯向け」、という住み分けが明確に存在しているのです。
日本の大豆はどこからやってくるのか
日本が輸入している大豆の多くは、アメリカから来ています。時期によって差はあるものの、輸入大豆全体の半分〜7割近くを占めることもあります。続いてブラジル、カナダが主要な供給国です。これらの国は広大な農地と機械化による大量生産体制を持ち、安定的に大豆を供給できる強みがあります。
ただし、近年は気候変動で不作が起きたり、国際情勢の影響で物流が不安定になったりするリスクも高まっています。輸入先が限られているということは、価格や供給の変動を日本がストレートに受けることを意味します。この構造が、国産大豆の必要性をあらためて浮き彫りにしています。
大豆が国内で増えにくい理由
日本で大豆の生産が伸びにくい理由は一つではありません。
まず、収益性の問題があります。大豆は小麦やコメに比べて収入が安定しにくく、農家にとって魅力が低いとされてきました。
また、気候の面でも安定した収量を確保するのが難しい地域が多く、大規模化もしにくい事情があります。
さらに、食品加工業の多くが長年「輸入大豆を前提」とした生産体制を構築してきたことも影響しています。輸入大豆は量が多く、価格も安いため、大規模な加工メーカーにとって扱いやすいのです。
そして農家の高齢化、担い手不足、耕作放棄地の増加など、構造的な問題も生産拡大を難しくしています。結果として「増やしたいけど、増やすための下地が整っていない」という状態が続いてきました。
国が進める大豆政策と新しい動き
こうした現状を踏まえ、国は近年、大豆を含む主要作物の生産体制を強化する政策を次々と打ち出しています。
代表的なものが「みどりの食料システム戦略」です。環境負荷を抑えつつ持続可能な農業を実現するための取り組みで、スマート農業の導入支援、生産効率を高める機械化、耕作放棄地活用の補助などが盛り込まれています。
また、国産大豆の利用を増やすため、契約栽培の推進や、加工業者との連携による長期安定取引を支援する取り組みも進んでいます。
地域ブランド大豆の育成や、JAや自治体との連携による“地産地消モデル”の構築も広がってきました。
国産大豆は品質が高いという強みを持っているため、政策支援がその価値を市場で発揮させる後押しになりつつあります。
国産大豆を選ぶ動きが広がる理由と国産大豆を増やすための課題
最近では、消費者側にも大きな変化があります。健康志向の高まりや、国産志向、食品の産地を重視する“トレーサビリティ”への関心が強まり、国産大豆を使用した商品を積極的に選ぶ人が増えてきました。
実際、スーパーでも「国産大豆100%」「地元農家の大豆使用」といった表示の商品が以前より目立つようになっています。これは単なるブランド戦略ではなく、消費者が安心感や品質を求めて選んでいる結果です。こうした動きは生産者の背中を押し、国産大豆に対する需要の底上げにもつながっています。
とはいえ、国産大豆の拡大にはまだ多くの課題が残っています。
・収量が不安定で、天候に左右されやすい
・労働負担が大きく、機械化・省力化が進んでいない地域が多い
・大規模化を阻む地形や耕地の細分化
・若い担い手が少ない
・加工メーカーが国産原料に切り替える際のコストが高い
これらの課題は一つひとつ丁寧に解決する必要があり、国、自治体、加工業者、生産者が協力して取り組む姿勢が求められます。
今後の展望
今後、国産大豆を増やすための鍵は大きく3つあります。
①「選ばれる」国産大豆のブランド化
— 地域品種の開発や品質向上、産地表示の強化で付加価値を高めること。
② 生産基盤の強化
— スマート農業、広域連携、耕地の集約化で効率的な生産体制をつくること。
③ 消費者に届くストーリーづくり
— 国産大豆が持つ価値や地域とのつながりを発信し、積極的に選ばれる状況をつくること。
国の政策はこの3つを支える方向で動いており、今後さらに民間企業や自治体との協働が進むことが期待されます。
まとめ
国産大豆を取り巻く状況は複雑ですが、消費者の小さな選択が大きな力になることも事実です。国産表示の商品を選ぶ。地元産の加工品を試してみる。産直市場を利用する。こうした積み重ねが、生産者の励みになり、生産拡大の後押しになります。
大豆は和食の基盤を支える重要な作物です。自給率を高めることは、日本の食文化を守り、未来の食卓の安心につながります。生産者、加工業者、行政、そして私たちがともに支えていくことで、より豊かで持続可能な大豆産業の姿が見えてくるはずです。
参考・出典:
農林水産省「我が国の大豆の需要動向」資料(食品用の需給と国産割合等)。
農林水産省「大豆をめぐる事情/輸入の概要」。
農林水産省 食料自給率に関する概況。
農林水産省「みどりの食料システム戦略」関連資料(政策の方向性)。






