アニマルウェルフェアに配慮して人間も動物も幸せに
はじめに
皆さん、『アニマルウェルフェア(以下「AW」)』という言葉をご存じですか?
日本語では「動物福祉」や「家畜福祉」と表され、農林水産省のHPでは『動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態』のことを指すと記されています。
この考え方を踏まえた家畜の飼養管理は近年、欧米を中心に広がりを見せています。
2021年に開催された東京オリンピックの食材調達要件の一つにAWに関する記述があり、これを機に日本でもAWへの意識や関心が高くなることが期待されました。しかしながら、まだまだ十分に認知されているとは言い難い現状です。
5つの自由
1960年代のイギリスで、家畜の飼育管理を改善させることを目的として、以下の「5つの自由(The Five Freedoms for Animal)」が提唱されました。
・飢えや渇きからの自由(Freedom from Hunger and Thirst)
例)「十分に栄養のある食餌が与えられている」「いつでもきれいな水が飲める」
・不快からの自由(Freedom from Discomfort)
例)「清潔で、騒音や風雨の影響を受けない環境である」「十分な広さがあり自由に身体を動かせる」
・痛みや傷、病気からの自由(Freedom From Pain, Injury or Disease)
例)「危険物のない環境下で管理されている」「怪我や病気のときには十分な治療を受けられる」
・正常な行動を発現する自由(Freedom to behave normally)
例)「その動物のありのままの振る舞いができる(種によって単独で、あるいは群れで生活できる)」
・恐怖や苦痛からの自由(Freedom from fear and Distress)
例)「身体的苦痛等による恐怖や不安を与えない」
当たり前のようなことにも思われますが、管理する動物の数が増えれば増えるほど、実践するのは難しいものです。
AWの考え方を取り入れるメリット
続いて、食品メーカーがAWに配慮した場合のメリットの一部を、簡単にご紹介します。
・取引での優位性
2021年には内閣府食堂で使用している卵が100%ケージフリーエッグになったことが話題となりました。ケージフリーとは端的に言えば放し飼いのことで、ケージ(カゴや檻)から解放された環境での飼育を指します。
行政機関を中心に小売や外食産業など、AWに配慮した食品へのニーズが高まっていくでしょう。
・食の安心・安全
AWは食の安全につながっています。人間はストレスを起因として身体の不調に見舞われることがありますが、動物でも同じことが言えます。ストレスの少ない環境で育った動物はまさに健康そのものです。
当然、その命を頂く我々にとっても、健康的で安心のできる食べ物になります。
・他社との差別化
AWというだけで商品の差別化につながります。SDGsが叫ばれる昨今、人間だけでなく動物にも配慮した商品は、消費者の興味関心を引きやすいでしょう。
・消費者からの支持
AWは、環境や動物保護に関心の高い消費者からの支持を得ることができます。
欧米ではAWの認証制度があり、認証を受けた商品は着実に売上を伸ばしているようです。日本でも、AWに配慮した商品は、消費者から注目される存在となる可能性があります。
実例として、イオンがトップバリュブランドで『平飼いたまご』を発売し、少々値段は張るようですが人気商品となっているようです。独自の平飼い卵の基準を設定し、野外の運動場を取り入れたケージフリー鶏舎など、鶏のストレスを減らすような取り組みを実施したたまごを生産しています。
■画像引用元:トップバリュ 平飼いたまご - イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ)(https://www.topvalu.net/ge_hiragaitamago/)
最後に
AWの考えを取り入れるためには、場合によっては設備投資が必要なこともあります。立て続けに起こる食品値上げで消費者が悲鳴を上げる中、これまで以上に生産コストを掛けることは、生産者として容易に判断できるものではありません。
大切なのは、やはり消費者の意識ではないでしょうか。「安くて質の良いもの」が理想ではありますが、本来あるべき姿のものを、適正な価格で購入するという選択ができるかが食の将来を左右するように思われます。
複合的な理由ではあるでしょうが、代替肉の市場規模が拡大していたり、ファッション業界でもフェイクファーやフェイクレザーなどが定着したりしていることの一要素には、動物をむやみに殺生しない、大切に扱いたいという思いがあるように思われます。
『アニマルウェルフェア』とは、人間が尊重しなければいけない当然のルールであると理解すべきなのでしょう。