ダイナミックプライシングでフードロス削減は実現可能か
ダイナミックプライシングとは
旅行や帰省の際、飛行機を利用されることはありますか?航空券を取り忘れて直前に急いで予約サイトを確認したら、1ヶ月前に見たときの2倍以上の値段に…なんて経験をされたことがある方は珍しくないでしょう。この価格の変動は「ダイナミックプライシング」によるものです。
ダイナミックプライシングはいわゆる「変動価格制」であり、その商品の売れ行きや時期等によって価格を変動させる手法のことを指します。既出の航空券の話では、時間の経過とともに残数が少なくなり、値段を上げたとしても、消費者の需要が見込めるはずだという判断が価格に反映されています。
この手法を導入するメリットは明確で、ずばり「企業の売上最大化」に役立てられることです。多くの企業では、年間を通して安定的に売上を確保することが難しく、繁忙期・閑散期といった波があります。ダイナミックプライシングを効果的に導入できれば、波をなくすことは難しくとも、全体の押し上げを図ることができるのです。
食品の「値段」と「売れ残り」
少し視点を変えて、食品の分野に当てはめてみます。売上最大化を図る上で最も警戒しなければならないのが、販売期限の超過による廃棄ロスです。
食品の賞味/消費期限は余裕をもって設定されていますが、店頭における販売期限はそれより更に短くなっている為、「まだ食べられるのに売り物にならない」状態になってしまいます。
夕方や夜にスーパーマーケットに足を運ぶと、惣菜や弁当に「○割引」「半額」といった極めて魅力的なシールが貼ってあることがあります。これも簡易的なダイナミックプライシングで、品質低下に伴う需要の落ち込みを値引きという手段で補っているのです。
中には、シールを持った店員さんをマークして、貼付後に最速で手に取る熱狂的なファンもいるほどです。なんてことない光景にも映りますが、品質の良し悪しに関わらず、それ相応の価格設定がされていれば十分購入の動機になることが暗に示されているように見えます。
実証実験とその結果
ダイナミックプライシングが食品にも効果がありそうなことがなんとなく分かったところで、さらに詳しい事例を見ていきましょう。
「日本総合研究所」と食品ロス削減を目指すショッピングサイトを運営する「クラダシ」は、2022/11~2023/1の期間において、ダイナミックプライシングの活用による食品ロス削減効果の実証実験を行いました。
https://www.jri.co.jp/company/release/2023/0228/(ダイナミックプライシングの活用による余剰食品プラットフォームの食品ロス削減効果の実証実験について)
この実証実験はショッピングサイト上で商品の残り賞味期限や売れ行き、ページビュー、購買率を判断基準として、自動的な値下げを実施することにより、売り切り促進の効果を検証したものです。
前年同時期との比較において、期間中の在庫回転率は25.9%、粗利率は5.5%向上したとの結果が得られました。
適切なタイミングでの値下げを実施することにより、販売機会増加と利益率向上の両立が可能になることが示されたと言えるでしょう。
食品関連事業者へのアンケートでも、全体に占める割合こそ製造時のロスに劣るものの、納品/販売期限切れによるロス発生率は高い水準であるとの調査結果が出ています。この手法が食品ロスの削減に効果を発揮することは、述べるまでもないかもしれません。
食品ロスの発生要因別の発生率・発生量
AIを用いて自動で適切な価格を導き出してくれることが望ましいですが、残り賞味期限など一定の基準を設け、人手を介して価格変更をするケースでも効果を見込むことは可能です。
ただし、その場合は消費者の心情を考慮する必要があります。過度な値上げは客足が遠のく原因となりますし、過度に値下げをすると利益が確保できなくなってしまいます。特に「安い」が当たり前になると、値上げ時に購買意欲が削がれ、想定以上に売れなくなってしまうこともあります。
最後に
食品ロスの問題は複合的な要素があり、簡単に解決できるものではありません。今回のダイナミックプライシングの事例においては、小売業者→消費者の関係性に限定されますが、メーカー→卸売業者や卸売業者→小売業者の段階においても、納入期限や納入ロットに関連するルールなど、見直しが必要な時期に差し掛かっているものが多くあります。
特定の誰かが負担を強いられるのではなく、消費者を含めた業界全体が一丸となって、食品ロス削減に取り組んでいけるといいですね。