令和の米騒動はなぜ起きたのか
はじめに
最近スーパーをまわっても、品薄により個数制限や価格の高騰など、米を十分に確保するのが難しいといった状況が続いており、「令和の米騒動」ともいわれるほど。
日本は米が余っているイメージなのにどうして米不足になっているのでしょうか?理由を深掘りしてご紹介します。
米はなぜ足りなくなった?
最近ようやく新米が出てきましたが、まだまだ値段が高いものや、たくさん買えないという現状が続いています。
なぜ米が急に足りなくなったのか、代表的な要因は4つあるといわれています。
1.去年の米が不作だった
昨年2023年に各地で起きた大雨や高温被害による米の不作です。昨年は全国各地で総雨量1,000㎜を超える大雨が発生、
台風や線状降水帯による大雨で米などの農作物に甚大な被害をもたらしました。
また、令和5年12月気象庁は2023年の天候について、年平均気温及び日本近海の海面水温はいずれも統計開始以降最も高い値と発表。特に北・東日本では春~秋の3季連続で季節平均気温が1位の高温となりました。
これらを踏まえ、平年と比較したその年の米などの農作物の収穫量を示す「作況指数(平年を100とする)」をみると、
全国的には101と上回っているものの、米どころの新潟県や秋田県などは平年を下回っていました。
この結果から、米どころを中心とした米の不作が発生し、供給量が減ってしまったと考えられます。
2. 外国人の消費が増えた
今年は円安の日本に外国人旅行者が多く訪れました。
日本政府観光局の発表によると2024年6月の訪日外国人数は310万人(2019年比+8.9%)で、単月としては過去最高の人数を記録。
新型コロナウイルスによる行動自粛が解け、世界的に旅行機運が高まっている中、世界15の国・地域に住む7,460人を対象に行った調査レポートでは、再訪したい国・地域で日本が1位となっており、中でも多彩なグルメや和食レストランに関心度が高いという結果が示されました。
また、観光庁による訪日外国人消費額(2024年4月~6月)の発表では、全体的な消費額の増加、飲食費に関しては2019年比170%増となっています。
このことから、インバウンドによる和食消費が増加し、米需要が高まったと考えられます。
3.備蓄需要の増加
そもそも8月は米の在庫が1年で最も少なくなる時期です。
そんな時期に南海トラフの臨時情報や台風接近により備蓄する人が増えたことも一因でした。
4.米不足報道による不安感
米が足りないと報道がされるようになると「足りなくなる前に買っておこう」という心理から、さらに不足が進んだとも言われています。
米の消費量はどのくらい減っている?
現在、日本人が1日どのくらい米を食べているかご存知ですか?お茶碗によそったご飯にすると2杯弱。
年間の消費量としては1人当たり51.1㎏。意外と多く感じますが、1962年度は118.3㎏なので、約60年の間に半分以下と激減しているのです。
さらに米とパンの支出額を比べると、元々は圧倒的に米が多かったのですが、2011年に逆転、更にパンだけでなく今は麺にも抜かれています。
日本人の食生活の欧米化により、米を食べる機会が減ったことが原因と言われています。
減反政策どうなった?
米を食べる量がこれだけ減ってきたのになぜ米不足になったのでしょうか。
それは消費量の低下に合わせて政府が米の生産量をコントロールしてきたことにあります。以前、日本には減反政策というものがありました。
戦後は米が足りなかった日本も、米の生産量が増加し、さらに食生活の変化によって米が余る事態が起きるようになりました。
そんな時、政府がとった政策が減反政策です。
「作る米の量を減らしてください。その代わり補助金を払います」というもので、補助金は10アールあたり最大で年間約10万円支払われていました。
生産量をコントロールすることで米の値段が大幅に下がることを防いでいたのです。
しかし、がっちりと守られてばかりでは日本の農業の国際競争力が落ちてしまいます。そこで、長らく続いていた減反政策は2018年に廃止され、
売買の自由化や値段の自由化もされました。それまで米屋さんでしか買えなかった珍しい銘柄米がスーパーに並ぶようになったのはこうした政策の影響によるものです。
ただ、減反政策はなくなりましたが、政府の米に対するコントロールが完全になくなったわけではなく、今でも政府の減反の呼びかけに協力する農家には助成金を支給しています。
実は日本は米を輸入している?
しかし、助成金まで出して政府は米を減らそうとしているのに、実は日本は毎年米を大量に輸入しています。
それがミニマム・アクセス米です。これは1986〜1993年の間に行われた、GATTウルグアイラウンドという、
自由貿易を進めるための話し合いの場で決められました。
日本は米が自給できるようになって以来、米を輸入していませんでしたが、「輸入しなかったり高い関税をかけたりするのはおかしい!」との外国からの圧力により、自由な輸入の制限を認めてもらう代わりに、毎年決まった量の米を輸入することになったのです。
輸入されたミニマム・アクセス米は外食産業や飼料用、みそや焼酎などの加工用などとして使われています。
では今、日本は米にどのくらいの関税をかけているのでしょうか?
答えはなんと280%。ざっくりイメージしやすいようにいうと、1,000円で輸入したものを3,800円で売る感覚です。
そして今回の米不足で話題となったのが備蓄米です。政府は10年に1度の不作や震災などの緊急事態に備えて100万トンを備蓄しています。実際、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震の時に一部放出されています。この備蓄米制度が始まったのは、1993〜1994年にかけて、冷夏の影響で米不足になった時でした。平成の米騒動と言われていた当時、急遽タイ米を輸入するなど対応したのですが、その教訓から政府は米の備蓄を始めました。
しかし今回の米不足での備蓄米の放出はされていません。
その最大の理由は新米の季節だったからと言われています。新米がとれてお米がたくさん出回るこの時期に政府の備蓄米まで出回ってしまうと、値崩れを起こしてしまいます。そうなっては農家の人は大変です。そこで農水大臣も「もうすぐ出荷が始まるから安心してください」と会見したのです。
米の品薄はいつまで続く?
現在スーパーなどで並んでいる米は令和5年産のものが多く、在庫も少なくなってきていますが10月以降、早ければ9月以降から新米が市場に出回ってくるため、現在よりは品薄が解消していくでしょう。
また、ある程度米が出回るようになれば急激な買い占めなどによる需要過多の状況も緩和されるため、徐々に品薄状態も落ち着いてくることが予想されます。
ただ根本的な値下がりは期待できず、今まで古米と新米が両方流通することで成り立っていたものが、古米も在庫がなく、今後新米でさえ猛暑の影響を受ける可能性もあるため、
値段が確実に落ち着くことはなく、高値が続いていくかもしれないとの見込みもあります。
主食の米を大切にしていく、ということが食料安全保障の点でも今改めて注目する必要があるのかもしれないと今回の騒動で考えされられました。
引用
農林水産省「令和5年産水稲の作柄について」
観光庁「インバウンド消費動向調査 2024年4-6期の調査結果」