AIを活用した次世代の外観検査
はじめに
工場や製造現場では、生産性を維持・向上させるために、納品先や消費者に対し品質の保証や納期を守ることは大変重要です。クレームや取引停止など様々な問題に発展する危険性にさらされないために、検査作業を自動化し生産性向上につなげようと、近年多くの企業が導入している「AI外観検査」というシステムがあります。
今回は、AIを活用した外観検査は従来の外観検査とどう違うのか、導入のメリットなど詳しく解説します。
従来の外観検査
まず外観検査は、製品の品質が仕様書・規定値に適合しているか確認する、作業において最も重要な工程です。
主にチェックする項目は、部品・製品の汚れや異物混入の有無、傷、欠け、変形がないかという点です。
従来多くの製造現場では、こうしたチェックを目視で行っており、ルーペや顕微鏡などを活用しながら細かな傷も人の目で見分けています。段階を踏んで外観検査を行い、製品の不良の発生を最小限に食い止めています。
しかし、作業員によって検査の質が変わったり、検査員のスキルや体調などに応じても変化するなど検査にばらつきが出てしまい、その結果、異物混⼊など不良品が流出する重⼤なリスクに繋がる可能性がありました。
また、⽬視検査で対応できるスピードに限界があるため生産数の変動や、⼈⼿不⾜による課題もあります。
従来の外観検査でも、画像検査は行われていましたが、「ルールベース」という、周囲との濃度差や2値化‧RGB範囲指定による⾊⾯積判定など「ルール(基準)」を設定して判断されていました。
そのため、微妙な変化が生じた不良製品は、⼈の感覚では認識できても、外観検査機は明確に境界線を引くことができず、⾒逃しや誤判定が多く出てしまうことが問題点として挙げられていました。
AI外観検査
一方、近年のAI外観検査は、ディープラーニング(深層学習)の技術を活⽤した検査の⼿法で、より正確で効率的な外観検査を行うための仕組みとして、多くの企業で導入されています。
AI搭載型カメラを導入し、AIに検出させたい特徴を学習させ、その特徴が⾃動で検出されるようにしたり、蓄積された過去のデータをもとにさらに小さな汚れや傷なども正確に検知したりすることが可能になりました。
AI外観検査の精度は年々飛躍的に向上しており、学習させていくことで形やサイズなど様々な不良にも対応できるようになるため、微妙な変化や判断の難しい場合にも正確な検出が可能です。
また、検査基準を統⼀できるため、検査の質を⼀定かつ検査スピードの向上が実現できます。企業にとって最適で無駄のないシステムを導入できるのも、注目されているポイントです。まさに次世代の外観検査といえるでしょう。
外観検査を自動化するメリット
AI外観検査を導入し作業を自動化することで、さまざまなメリットが得られます。
1.人材不足の解消
近年各業界において、多くの企業が人材不足に直面しています。少子高齢化に伴う人手不足が深刻化している状況の中で人材不足を解消するためには、業務の効率化や自動化が欠かせません。
AIを活用した外観検査システムによってチェック作業の自動化が可能になれば、本来目視の検査などにさかれていた人員を別の作業に充てることができ、人材不足の解消につながります。
また、人材が集まりにくい地方にある工場でも、人材不足の問題の緩和が期待され、効率的な稼働も実現できるでしょう。
2.ヒューマンエラーの防止
人の目視による外観検査では、全ての不良品を完全に見抜くことは難しく、検査員のスキルや経験値、体調によってもばらつきが出てしまいます。
しかし、AI外観検査システムによって作業を自動化すれば、どのような環境でも常に一定の高い精度やスピードを維持することが可能です。
3.検査品質の均一化
ヒューマンエラーがなくなることで、検査品質の均一化がはかれます。検査のチェック漏れや、不良品の見逃しがなくなり、不良品を市場に出荷するリスクを抑えられます。
不良品の出荷リスクが下がるということは、製品を生産する企業への信頼や高評価につながり、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
4.24時間体制で検査可能
長時間連続して作業することは人間にとって難しく、ヒューマンエラーを引き起こすきっかけになってしまいます。また、近年は働き方改革によって、長時間労働を削減する取り組みも活発になっています。AI外観検査システムに検査を任せれば、高い精度の外観検査を24時間体制で行うことが可能になり、生産力も向上するでしょう。
メリットが多いことから、企業は導入を推進しているのです。現在、経済産業省も外観検査へのAI導入を積極的に推奨しています。
AI外観検査のデメリット
もちろん、AI外観検査を導入することによるデメリットも存在します。
1.多額の初期投資
AI外観検査機器の導入には、システム開発をはじめとする多額のコストがかかることや、設備の設計や設置の手間もかかります。導入後のメリットが大きいため、後のランニングコストを考えれば妥当な金額ではあるものの、導入に多額の初期投資が必要なことは、企業にとって導入をためらう要因となります。
2.適切なデータ収取が必要
AI外観検査の精度は、学習するデータの質と量に大きく依存します。AIはデータ収集が得意ではないため判定を行うための必要なデータをそろえる必要があり、質の高いAIを活用しても適切なデータが収集されていなければ、高い精度が期待できない可能性があります。
AI外観検査を取り入れた事例
いまや製造業だけでなく、観光地やイベント会場など、さまざまな業界での導入されているAI外観検査。導入を実現した、身近な企業の事例を紹介します。
大手食品メーカーのキユーピーは、ポテトサラダなどの総菜の原料となるカット野菜の検査に、AIを活用した自社開発の原料検査装置を導入し、2019年1月から運用を開始しました。
これまで、いちょう切りに加工されたニンジンを目視で検査し、規定外の形状や変色したもの、混入した不純物などを取り除いていました。しかし目視による検査は、作業者の身体的負担が大きく、作業改善をするため、AI原料検査装置を導入し、ディープラーニングを活用した画像解析により良品を選別する方法に切り替え工程を自動化し、作業効率を向上させ、かつ「働く人にやさしい」工程に進化させました。
まとめ
検査の自動化や効率化により生産性を高めることが可能なAI外観検査は、企業にとって大変効果的なシステムです。
AIの技術は現在も進歩し続けており、外観検査の精度もより一層向上されていくことが期待されます。今後は少子高齢化が加速し、人手不足がさらに深刻化していくことも予想されます。
製品の品質の向上とコスト削減を目指す企業は、ぜひこの機会に、AI外観検査システムの知識を深めてみてはいかがでしょうか。
参照:経済産業省「AI導入ガイドブック 外観検査(部品、不良品あり)」
AIを活用した原料検査装置をグループに展開 | ニュースリリース | キユーピー