賞味期限延長技術の可能性
はじめに
今や私たちの生活に欠かせない、レトルト食品や缶詰などは、賞味期限延長技術により長期保存可能になった代表的なものです。
食品の保存技術は、食品のおいしさを保つだけでなく、長期にわたり機能性も保たれることで災害時に備えることもでき、さらにはフードロス削減に繋げることができます。
今回は、賞味期限の延長技術について詳しくご紹介します。
「消費期限」と「賞味期限」
一般的によく目にする、「賞味期限」と「消費期限」ですが、賞味期限延長についてより深く理解するために、どういった違いがあるのかおさらいしてみましょう。
加工食品には、「賞味期限」と「消費期限」のどちらか一方のみの表示が義務付けられています。
まず、「賞味期限」は、「食品がおいしく食べられる期限」を示します。この期間内に消費することで、食品の風味や品質を最大限に楽しめることができ、また期限を過ぎてもすぐに安全性が失われるわけではありません。主に、加工食品、乾燥食品、缶詰、インスタント食品など、比較的保存が効く食品に設定されています。
一方、「消費期限」は「安全に食べられる期限」を示します。この期限を過ぎると食品の品質が著しく低下し、健康上のリスクが生じる可能性があるため、期限を過ぎた場合には消費しないことが推奨されます。特に生鮮食品や調理済みの食品、冷凍食品などの細菌の繁殖や腐敗が早く進む可能性がある食品に設定されています。
いずれの期限表示も「年月日」で表示しますが、賞味期限が製造から3ヶ月を超えるものについては「年月」での表示が認められています。
進化する保存技術
保存技術は日々進化し続け、多くの食材に用いられる冷凍保存や保存料の使用、細菌の繁殖を抑えるpH調整、ナノテクノロジーを活用した包装技術など、さまざまな工夫により長期保存を可能にしています。
近年では特に包装技術が進化を遂げており、以前よりもさらに賞味期限を延ばすことに成功しています。ナノ材料を用いた包装技術は、酸素や水分のバリア性を高め、食品の酸化や劣化を防ぐのに役立ちます。その種類は、酸素透過や水蒸気透過などを抑えるバリア素材のものや真空包装やガス置換包装などさまざまです。最近では、食品を少量ずつ個包装化されたものをよく目にするのではないでしょうか。
食べきれる、または使い切れる分量だけ入っているので、食品が傷んでしまったり、使い切れず廃棄になったりという、食品ロスのリスクの減少も期待できます。
技術の進化により、長期保存が可能な食品が増え、使い勝手もよくなるなど、消費者のニーズにも応えているのです。
賞味期限延長ができること
賞味期限延長技術は、食品の保存可能性を高め、安全かつ質の高い食品を提供するための重要な技術というのはわかりましたが、他にも技術を活用することで、可能にできることがあります。
1.食品ロス削減
食品ロスとは、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品のことです。食品ロスの原因はさまざまですが、原因の1つに「賞味期限切れによる廃棄」があります。賞味期限が長くなればなるほど、賞味期限切れを理由とした廃棄のリスクが軽減するため、食品ロス対策として賞味期限延長技術が注目を浴びています。
食品ロスを削減するために現在日本では、原材料や製造方法の変更など期限延長技術による取り組みや、製造過程や製造過程以降の温度管理、HACCPに沿った「一般的な衛生管理」のさらなる充実、賞味期限表記の変更など、さまざまな取り組みや技術により期限表示の延長をよびかけており、国全体で食品ロス削減に力をいれています。
2.コスト削減
製造企業側で廃棄ロスが発生した場合、製造した食品の原材料の仕入れや加工にかかったコストが無駄になるだけでなく、廃棄するためのコストも発生します。
また以前の「年月日」表示では、納品済み商品より前の日付は納品することができず、食品ロスが発生していましたが、「年月」表示になったことで納品が可能となりました。また、同じ賞味期限の商品をまとめて保管できるので、保管スペースや荷役業務、品出し業務等の効率化につながります。
賞味期限延長による廃棄ロスの削減は、企業の損失を抑えて利益を増やす施策ともいえるのです。
3.非常食の進化
缶詰やレトルト食品は、賞味期限延長技術により長期保存が可能であるため、災害時の非常食として今や、なくてはならない存在となっています。また、非常食は3年から5年が一般的な保存期間ですが、常温で25年間の超長期保存が可能な「サバイバルフーズ」という、非常用食品が永谷園から発売されています。腐らず酸化しない高度なフリーズドライ加工技術が25年の保存を可能にすると同時に作りたてそのままの新鮮な味を保てるというのです。非常食の交換の頻度を減らすことは、コストを削減するだけでなく手間も減らせます。賞味期限延長技術は、日常生活だけでなく非常時の食を支える、人々の強い味方となっているのです。
活用の注意点
賞味期限延長技術によって保存された食品は役立つシーンが多い一方で、その安全性について製造者や消費者は確認や注意をする必要があります。
1.保存料の影響
食品衛生法により、保存料は科学的な評価にもとづき安全性が確認されており、人が一生毎日使用しても健康に影響しない量「一日摂取許容量」をもとに使用できる食品、摂取できる量が設定されています。しかし、稀に大量の保存料をとりすぎてしまうと健康リスクを伴うことがあり、人によってはアレルギー反応や過敏症を引き起こすことがあります。摂取のし過ぎに日ごろから気を付けるなど消費者側の意識が大切です。
2.新しい技術の評価
高圧処理やナノテクノロジーなどの新しい技術については、その効果と安全性を徹底的に評価する必要があります。
食品包装フィルムを使用する場合は、内容物の特徴に合わせて選ぶ必要があり、包装フィルムが内容物に適さない場合、腐敗したりカビが生えたりと品質と安全性の低下を招くことがあります。さらに、包装に穴が開くようなトラブルも起こりかねません。そのため、製造企業が賞味期限延長を目的にフィルムを選ぶ際は、専門業者からアドバイスを得ることや、適切な選定が重要です。
まとめ
賞味期限延長技術は、消費者のニーズや食品安全性に応じながら、消費者の食の選択肢を広げるだけでなく、取り組む企業側にもメリットが多いということがわかりました。
これからも技術の進歩により、食品ロスや廃棄ロス削減に寄与してくれることでしょう。
また、私たちの意識を少し変えるだけでも、食品ロスは減らせます。いま一度、おうちのキッチンを確認してみてください。
引用:「食品の期限表示制度の変遷等」消費者庁食品表示課